ここ数年、音楽と映画館とは親密度を増すばかりだ。理由はいくつもある。映画館の音響設備の充実や映像制作の技術的進歩による大音量と大画面の魅力。家庭用のDVDやブルーレイはもちろんのこと、生のコンサート会場で見るのとも違う楽しみ方が出来るようになった。

そこで上映されるライブ作品の多くは「記録性」や「再現性」を趣旨としているように思う。キャッチコピー風に言えば「ライブの感動をもう一度」。会場の客席からは見えなかったアーティストの動きや表情。数千人や数万人が集まった熱気や興奮の臨場感をどう伝えるかである。

浜田省吾の初めての映画館上映作品『旅するソングライター』は、そうした通常のライブ映像作品とはやや趣を異にしている。その先へ行っていると言えば良いだろうか。

撮影されているのは、2015年に発売されてアルバムチャート二週連続で一位を獲得、史上最年長記録となった10年ぶりのアルバム「Journey of a Songwriter ~旅するソングライター」を携えて行われた二つのツアー。「ON THE ROAD 2015」はホールツアーで「ON THE ROAD 2016」はアリーナツアーだった。前者はアルバムに特化したもので、後者はアルバムを核にこれまでの代表曲を網羅し、それらに新たな息吹を吹き込むという、デビュー40周年ならではの大規模なものだった。

二つのツアーは「作品としてのコンサート」という完成度を備えていた。CDだけでは伝えきれないイメージや心象風景を映像や照明を駆使して増幅する。超一流ミュージシャンの生演奏がCDの音を更に豊かにする。会場の観客の反応とともに一期一会の総合的な音楽空間を作り上げてゆく。

この浜田省吾の新しい映像作品『旅するソングライター』は、そこに留まっていない。ライブを再現するのではなく会場では見ることの出来なかったイメージ映像も加味している。大画面を生かした編集や効果的なカット、印象的なメンバーの表情、じっくりとテーマに迫ってゆく手法は映画的以外の何物でもない。

CDともライブとも違う、ライブをベースにした新しい映像表現がこの『旅するソングライター』なのだと思う。


田家秀樹 (音楽評論家 / ノンフィクション作家)